このページは2003/11/25更新
03/11/15創設
ある方より非常におもしろく役に立つご質問を頂きましたのでご紹介いたします。繰上返済に際し、その繰上金額そのものに最適な額が存在するのか?と言う問いかけでありますが、皆様もご一緒に考えていただけたら幸いです。
元利均等返済シミュレーション
繰り上げ返済の最適化?の矛盾
を読ませていただきました。
私の頭脳が強くないためか、あまり理解できませんでした。
さらに、ある方に出してもらった繰上げ返済の試算を見ると、この『最適』なるもの
があるのかなぁとも思ってしまいました。
その出していただいた返済試算ですが、
住金(2.55%,3.5%)1330万円借り入れ、
35年返済、返済1年後に300万円の繰上げの場合
(1)短縮期間131回、返済額減額4,253,942円
同条件にて、500万円の繰上げの場合
(2)短縮期間201回、返済額減額5,941,874円
となり、
300万円では、4,253,942-3,000,000=1,253,942
500万円では、5,941,874-5,000,000= 941,874
で、300万円を繰り上げ返済したほうが効果があるように言われました。
疑問に思いながらもそういうこともあるのかとそのときは思っていたのですが、
これもトリックなのでしょうか?返済回数は確かに131回と201回と差はあるのですが・・・。
私共の論理展開を見る前に一度ご自分で考えてみて下さい。
数値設定は以下のようにして近似したいと存じます。
諸々の細かい条件(例えば諸経費等)があるのでしょう当方の計算結果と一致しませんでしたので、元利均等返済シミュレーションでは次のように設定して、算定数値等も極端な差がないのでその結果を利用させていただきます。(端数処理は緑-緑-緑、1期分=1ヶ月)
/当初金利2.55%,11年目以降3.5%の固定金利で、1330万円借り入れ、35年返済。
/月分のみで繰上(経費無視)後も返済額同一の期間短縮型
/返済1年後に300万円の繰上げの場合
/(1)短縮期間138回、返済額減額4,351,288円
/同条件にて、500万円の繰上げの場合
/(2)短縮期間207回、返済額減額5,996,028円
/となり、
/300万円では、4,351,288-3,000,000=1,351,288
/500万円では、5,996,028-5,000,000=
996,028
一般に A−B とか、A÷C の計算結果を良く指標として用いられますが、Aは「評価される数値」、B及びCはその「基準となる数値」と見なすことが出来ます。基準となる数値との偏差(基準B)や比率(基準C)と言う具合にして、Aを評価する指標として用いられます。
ここで指標として意味をなさないのは、売却額から投資額を2重に引いていることから来ていすが、複雑な統計や数理指標の中にはそれに似たような場合も存在するやも知れません。が、ここでの一般的に扱う指標としては意味をなさないことはご理解いただけると存じます。
むしろ、投資額に対してその運用益(返済額減額)の比率を云々する方がまだ健全で
例えば
繰上額 運用益 ÷ 投資額 = 運用益比率 ・・・・・#1
300万円 4,351,288 ÷ 3,000,000 = 1.450
500万円 5,996,028 ÷ 5,000,000 = 1.199
と言う具合です。
300万円に対して1.450すなわち145%の運用利益、
500万円に対して1.199すなわち120%の運用利益(=返済額減額)と言う使い方です。
別途、総支払利息を繰上直後元金残高で割る方法もあり
(本来は、繰上以降のみの総支払利息とすべきでしょうが・・・)
例えば
繰上額 総支払利息 ÷繰上直後元金残高=?比率 ・・・・・#2
なし0 8,395,446 ÷ 13,061,506 = 0.643
300万円 4,044,158 ÷ 10,061,506 = 0.402
500万円 2,399,418 ÷ 8,061,506 = 0.298
と言う具合です。
ならばここから、繰上返済の効果を評価したり最適な判断と見なせる指標として、上記#1の運用益比率や#2の?比率が適切かという判断が必要になってきます。
繰上額 | 運用益 ÷ 投資額 = | 運用益比率 |
1万円 | 20,123 ÷ 10,000 = | 2.012 |
10万円 | 199,248 ÷ 100,000 = | 1.992 |
100万円 | 1,792,454 ÷ 1,000,000 = | 1.792 |
200万円 | 3,213,843 ÷ 2,000,000 = | 1.607 |
繰上返済に於けるその金額に対する最適化論は、ここでご質問で提示されたやり方では成る程300万前後でピークにはなり何ら統計や数理的な意味が存在する可能性は否定しないまでも、実質的な意味を見いだせないものでは如何ともし難く、かといって私が上で示した単純な#1や#2でも、共にこの度要求している指標として的確には語れないことが分かるかと存じます。誰かがさらに最適な方法論を見つけるのを待つべきかも知れませんが、一般化して数値計算上で求めるのはその性質上無理だと思われます。
では、その時点時点で最適な繰上金額の算定は出来無いのかと言えば、そんなことはないのです。ただ、一般論としての計算論は永遠に無理っぽく、個人個人により又今後の経済情勢によりその額は変動するのだというのが結論で、現状と将来を見据えた計算が個別に必要となるのです。
繰上額 | 運用益 | 運用益比率 | 元金残 | 支払利息総計 | 別運用資金 | 最終月回 | 短縮月数 |
0万円(繰上無) | 0 | − | 13,061,506 | 8,395,446 | 5,000,000 | 420 | − |
1万円 | 20,12 | 2.012 | 13,051,506 | 8,375,323 | 4,990,000 | 420 | − |
10万円 | 199,248 | 1.992 | 12,061,506 | 8,196,198 | 4,900,000 | 415 | -5 |
100万円 | 1,792,454 | 1.792 | 12,061,506 | 6,602,992 | 4,000,000 | 368 | -52 |
200万円 | 3,213,843 | 1.607 | 11,061,506 | 5,181,603 | 3,000,000 | 322 | -98 |
300万円 | 4,351,288 | 1.450 | 10,061,506 | 4,044,158 | 2,000,000 | 282 | -138 |
500万円 | 5,996,028 | 1.199 | 8,061,506 | 2,399,418 | 0 | 213 | -207 |
ここでの別運用資金とは最大繰上可能資金500万円から繰上額を差し引いた金額です。もうお気づきかと存じますが、実はこの部分に注目することがこの問題解決の為の味噌なのです。
とは言っても、どの時点で比較検討時期とするかは重要なテーマです。色々な試行錯誤の上私共が出した検討時期の結論は、この場合1年後に繰上可能な500万円を全額繰上に充てた場合の当初から213回目すなわち17年9ヶ月目で完済された時点と思われます。
結局、1年後繰上ですから残り16年9ヶ月間で「別運用資金」が他への運用によってその時点の元金残より増えていれば無理に繰上の必要はないということになります。
各繰上金額での17年9ヶ月目での元金残を求めてみますと
繰上額 | 17年9ヶ月目残 | 別運用資金 | 比率 | 備考 |
0万円 | 8,251,651 | 5,000,000 | 1.649 | =(8,251,651-7,124)/5,000,000 |
1万円 | 8,235,164 | 4,990,000 | 1.649 | 同様 |
10万円 | 8,086,765 | 4,900,000 | 1.649 | 同様 |
100万円 | 6,602,741 | 4,000,000 | 1.649 | 同様 |
200万円 | 4,953,842 | 3,000,000 | 1.649 | 同様 |
300万円 | 3,304,935 | 2,000,000 | 1.649 | 同様 |
500万円 | 7,124 | 0 | − | 7,124は通常最終回合算返済 |
となり、
いずれも繰上した500万円からの残りの金額(=別運用資金)を今後16年9ヶ月間で1.65倍程度に増やせれば良く、そこが収益分岐点でもあるのです。これは結局2.55%で9年,その後3.5%で7年9ヶ月間、月毎の複利で増やしていくことと同等です。これはさらに別表現で、2割源泉税の取られる1年定期の預金で言えば(2.55%→)3.225%、(3.5%→)4.446%の金利で運用しなければならないのと同等でもあります。将来の金利は誰も分からない。が、直近で言えば3.225%の預貯金運用はまず不可能でしょう。だから今後の収入状況も踏まえて余裕があるなら運用益比率に関わらず出来るだけ繰上返済をしようと言うことになります。
でも反面で、ご商売をされていての急遽の資金需要に高利の資金に手を出す可能性や子供の進学等でその資金をローンで手当をするなどなど、先が分かっているのに何でもかんでも繰上に廻してしまうと言うのもいただけませんし、現在3.225%を超えているような預金等を解約してまで繰上の500万円を調達する必要性がないと言うことも言えます。さらに確実に3.225%を超えるような投資手段がある場合も然りです。
余裕資金でもこの様な資金を除いた資金から繰上返済をすべきで、一般化した計算解で求まるものでは無いと言うことがご理解いただけるのではないでしょうか。
低利しか運用できない余剰の資金範囲で繰上返済は十分に検討する値打ちがある。が、繰上返済額で一般論での最適な計算解というものはなく、現状と将来を見据えた計算が各自個別に必要となる。その際のポイントとなるのは、余剰資金の運用利率の見極めによりその最適化が決定される。と言うのが私共の出した一般向け結論です。
ご質問の場合でも「500万円の調達方法と将来の生活設計等の中で個別にその最適な解が異なって来るというのが結論で、500万円より300万円の繰上の方が最適であるという論拠は存在しないし、それは一般的などのような計算法でも求めることは出来ない。がしかし、質問者の個別事情による算定で最適な方法を見いだすことは可能である」と言うことになります。
誤りや皆様のさらなる反論がございましたらご指摘下さい。
2.55%→0.0255
0.0255/12=0.002125 (換算月利)
1を加えた1.002125の12乗(12回同じ数字を掛けること)=1.0257996 (月複利の年利換算)
1を引いて0.0257996÷0.8=0.0322495 (20%源泉税を考慮した年利換算) →3.225%
私共「繰り上げ返済の最適化?の矛盾」は、あの他の方が例示されている最適化?なるものの明らかな計算上の矛盾を指摘し、計算上誤りやすい部分を指摘・解説したものでした。しかし、それは「金利の高い方・返済期間の長い方からの優先返済が有利」と2つの条件を曖昧な表現で、ごくごく一般的に言われていることにも疑問を呈したものとなっています。
私共結論の「金利の高い方への優先返済で良い」は、あそこで展開されている返済能力を加味した計算法でその真理を突いており誤りの余地はありません。あの例は極端な差のある2例での検証ですが、私共で別途検証した微妙な金利差と返済期間の長短による例での検証でも、あそこで示された計算法で見事にそのことは成り立ちます。
「金利の高い方」「返済期間の長い方」からの優先返済で「では、どっちなのだ?」と言う問いかけに明快に答える為にも大変重大な要素の提示にもなっています。ただし重要な前提があります。一般的な共に固定金利・期間短縮型という前提です。
そこで、例えば金利低長期物が途中から金利高(11年目等)となっている場合は、その金利差と返済時期・繰上額等々の条件によっては「長期物への返済の方が有利な場合もある」と言う結論も当然存在します。が同時に、「2つの融資へ分散化して繰上返済するのは少なくとも得策ではない。」という結果も私共の検証で導き出されています。→特集「繰上返済額分散化の愚」にて公開中。(ただし、現実的には色々な条件が重なり合い詳細に検証しなければならない場合は当然存在します)
2つ以上の融資への繰上では「金利の高い方へ優先返済で良い」と言う単純な理解だけでも一般的な場合は充分です。でも、あの私共の解説を詳細に理解することは確かに簡単なことではないかも知れませんが、初歩的な第一歩として出来るだけご理解いただき、その先にもある条件の多様化にも誤り無く対処できるきっかけになれば幸いなのですが・・・あれは、そのようなことを願って書き上げた特集なのです。
(あるサイトであの私共の解説を含めて泥沼と表現されているところもあります。それだけ充分理解していただくことは難しいことだと考えます。が、世間の定説からつい誤りやすいことに対して重要な指摘をも示唆していることを分かっていただけないことは非常に残念なことであります。反面で驚きを持って受け止めていただいているサイトも勿論あります。当ソフトがないといろいろな検証もまず無理でしょうし、私も当ソフトでシミュレーションして初めて気付いた事柄でもありますので致し方ないと考えております。)
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